TOP > 部室 > ガバリス伯爵の部屋 > ガバリス伯爵のコラム
> オカルト入門講座4「秘密結社」

オカルト入門講座4「秘密結社」

ガバリス伯爵のコラムに戻る

ガバリス伯爵 『あなたを誘惑する』 ガバリス伯爵 (gabalis)
オカルト入門講座4「秘密結社」
秘密結社とは何をしている団体か、部外者は知ることができません。秘密だからです。
とは言え、存在が知られていなければ結社員を増やすことができないので、その存在は堂々と公表されています。
現在、世界で最もよく知られている秘密結社のひとつ、フリーメイソンはあまりにも有名です。
現実の社会とは異なった身分階層(位階)で構成されていて、様々な儀式を行っています。
今でも未開といわれる部族では、祭りのように普段とはことなる「ハレ」の時だけ秘密結社のような集団が形成され、イニシエーションなどの儀式を行います。
恐らく、この形態が秘密結社の本質です。
古い密儀宗教の隠された伝承なのです。
大まかにいえば、フリーメイソンもイニシエーションを行っている集団です。
非常に大切で意味のある行為ですが、それだけでは実質的に社会にとっては何の影響もありません。
では、なぜ、フリーメイソンのような秘密結社が恐れられるようになったのでしょう。

フリーメイソンは石工の職人の職人組合という意味です。
この石工というのが面白いところです。
ヨーロッパでは教会などの建築物は石工が建ててきました。
キリストの生涯や聖人たち、聖書の物語など、素晴らしい彫刻が残されています。
文字を読むことができない人々を、文字以上に情報量の多い彫刻でもって教育してきたのは、まぎれもなく石工たちです。
しかし、そんな教科書でもある教会の彫刻の中に、時折、キリスト教以外の異物が紛れ込んでいるのはなぜなのでしょう。
あからさまに教会の倫理と異なる倫理を説いています。
そう、もともと石工たちはその技術と共に、ある隠された知を伝承していたのです。

17世紀初頭のドイツに薔薇十字団という秘密結社が出現しました。その出現の手段として、出版という新しいメディアが使われたので、またたく間にヨーロッパ中にセンセーションを巻き起こしました。
澁澤龍彦は薔薇十字には美しい寓意が隠されていることを指摘しています。
東洋的「知」の象徴である薔薇(カトリックの宗教観から逸脱する哲学や科学一般は教会により禁止されていたので、それら隠された知は東洋、主にペルシアからもたらされました。薔薇は東洋原産の植物です)と西洋キリスト教の象徴である十字の結合。
それこそがかれらの夢だったのです。

当時のヨーロッパは荒れていました。
その原因はいくつもありましたが、およそローマカトリック教会の古い価値観と、そこから生じる弾圧が全ての元凶でした。
その荒廃したヨーロッパを薔薇十字団が治めてくれると人々は本気で信じたのです。
薔薇十字団は、正式には薔薇十字友愛団と言い、クリスチャン・ローゼンクロイツという魔術、錬金術を極めた人物を始祖として、学者、医師、建築家、音楽家などが古い宗教的価値観に囚われず、医療などの奉仕活動に無償で従事しながら、自由に魔術、錬金術、自然科学が渾然一体となった学問を追求し、また、それを庇護する王侯に富を与えると宣言しました。
これは、当時の宗教倫理からは著しく逸脱しています。
彼らは表立って活動することができませんでした。
当然誰一人として、薔薇十字団の団員を見た者はいません。
しかし、様々な歴史的資料から、彼らが発表した文書通りの団体ではないにせよ、薔薇十字団は存在したと思われるのです。
魔術や錬金術を庇護したルドルフ2世という神聖ローマ皇帝が死んでしまって以来、大きな後ろ盾と居場所をなくした先進的知識人たちは、プファルツ選帝侯フリードリヒ5世の下に集まりました。
薔薇十字団と名乗るようになった彼らは千載一遇のチャンス、17世紀初頭のドイツに巡ってきた政治的空白の間隙を突いて、本当に自分たちの理想の国を作ろうとします。
(プファルツ選帝侯をイングランド王女と結婚させ、神聖ローマ帝国の皇帝にしようとしたのです。)
結局、それは失敗して、長く続く三十年戦争の発端ともなったのですが、それについては長くなるので書かないことにします。
夢破れた彼らはどうなったのでしょう。
もともと学者や医師といった知識人ばかりです。
その中心人物であったアンドレーエという牧師同様、正体を隠し通して死んでいった者もいるでしょう。
しかし、その中には新しい結社の受け皿を求めた者がいました。
それがフリーメイソンだったのです。
フリーメイソンは薔薇十字の血脈を継いでから急速に発展し、その制度や教義を確立していきます。

フリーメイソンは今でこそロータリークラブの成れの果てといった様相を呈していますが、かつては自由、平等、博愛といった精神を標榜する紳士たちの集まりでした。
これは、薔薇十字の基本概念です。
フランス革命も、アメリカ独立もフリーメイソンの力で成し遂げられました。
いわば、17世紀ドイツで失敗した薔薇十字の理想を、18世紀のフリーメイソンたちが受け継ぎ達成した偉業なのです。
ダグラス・マッカーサーもフリーメイソンでした。
もし彼がフリーメイソンでなかったら、戦後の日本に自由や平等といった概念がもたらされることはなかったでしょう。

さて、最初の問い、なぜ秘密結社は恐れられるか、という問いに戻りましょう。
秘密結社がイニシエーションだけを行っている団体だったら、つまり、元の石工職人たちの秘密の会合だったら、大人の男たちの悪ふざけ程度で、だれも気にも留めなかったでしょう。
秘密の集団が社会に変化をもたらしたという事実が恐れさせるのです。
しかし、その変化は虐げられてきた知識人たちの理想が突き動かした価値ある変革でした。
フリーメイソンの陰謀などと偽りを語り、小金を稼いでいる人々の虚言を信じてはいけません。

最後に、私自身はフリーメイソンではありませんし、どんな団体にも所属していないことを書いておきましょう。