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オカルト入門講座3「錬金術」

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ガバリス伯爵 『あなたを誘惑する』 ガバリス伯爵 (gabalis)
オカルト入門講座3「錬金術」
錬金術とは、卑金属である鉛などを貴金属である金などに変化させる秘技です。ニコラ・フラメルという中世の錬金術師は、衆人環視の中、見事に卑金属から金を生成しました。それ以前にも、以降にも、金の生成に成功したという記録を見つけることはできません。

錬金術の起源に三倍偉大なヘルメスという意味の名前を持つ、一人の偉大な錬金術師がいます。古代エジプトにいたと言われる、ヘルメス・トリスメギストスです。
ヘルメス・トリスメギストスは錬金術の奥義をエメラルド板に刻んで残しました。(その真偽をここで論じるのは意味がありません。)さまざまな寓意とイメージがあふれる文章が残されているので要約することはできませんが、ここから様々な解釈が生まれ、錬金術が広がっていったと推察するに相応しい内容です。
エメラルド板を祖にして、ヨーロッパには様々な錬金術書が出回りました。しかし、そのどれもが具体的な金の生成方法を書いていません。非常に寓意的、比喩的な書き方なのです。その暗号のような文章を解読することは困難を極めます。たとえ、それらを自分なりに解読して、実践しても、金の生成には届きません。時間と、お金だけが無駄に費やされます。青ひげのモデルとして有名なジル・ド・レも錬金術の研究にお金をつぎ込み、破産しました。錬金術はまやかしの術とされ、錬金術師たちは軽蔑されてきた歴史があります。
歴史上、唯一の成功者であるフラメルは様々な文献を研究しただけでなく、イベリア半島で偉大な師を得たので、暗号のような金の生成の秘術を読み解くことができたと言われています。しかし、フラメルは本当に金を生成できたのでしょうか? 

現代化学の知識に照らせば、それは不可能です。フラメルが金を生成したとは到底信じられません。しかし、その真偽を論じることに全く意味はありません。真の錬金術の目指すところは物質的な金の生成ではなく、精神的な金を生成することだからです。黄金は比喩なのです。

東洋には仏教や中国哲学など、優れた精神文化が存在します。西洋にもかつてはそれらに匹敵する素晴らしい思想がありました。死と復活を基本思想に据える古代密儀宗教です。古代密儀宗教はキリスト教などの一神教文化に駆逐されてしまいました。しかし、その思想は絶えることなく一部の人たちに伝えられ、地下に潜り、連綿と受け継がれました。その一つの表れが錬金術だったのです。
暗号のような錬金術の金属変成に黒化という過程があります。黒化は物質の死に例えられます。これは古代密儀宗教の一番の特徴である死の儀式=イニシエーションそのものです。黒化を経過した物質だけが黄金へと変化していくのです。

また、金の生成に欠かせない物質を賢者の石といいます。賢者の石があれば全ての物質を黄金に変化させることができます。賢者の石を手に入れられれば、錬金術の奥義を手にしたも同じです。なので、賢者の石を手にすることも錬金術の一つの目標とされました。賢者の石は、哲学者の石とも呼ばれます。では、なぜ、哲学者なのでしょうか?
学問は近世に至るまで、細分化されていませんでした。理系、文系という大まかな区分けすらなかったのです。学問のエキスパートは数学、文学、医学、自然科学、etc...全ての分野に精通していました。そういう学問全般が哲学だったのです。
現在、最も優れた博士に贈られる称号を哲学博士(Ph.D.)といいます。これは、その人が哲学をやっているからではありません。科学者でも、物理学者でも、数学者でも哲学博士です。賢者の石を手にしたかのような業績を称えているのです。

錬金術のもっとも偉大な功績は、現代化学の礎となったことです。錬金術の器具や用語などがそのまま化学に用いられています。恐竜が鳥になって生き延びている様に、錬金術も化学となって生き延びているのです。
また、錬金術は様々なイメージの宝庫です。はっきりと表現することを避けるために様々な比喩が用いられました。比喩は新たなイメージを産み、そして、また新しい比喩が生成されます。
19世紀以降の文学者や、画家といった芸術家は、それらのイメージを創作の源泉にして様々な作品を生み出しました。錬金術のもう一つの功績といっても良いでしょう。上でも書いた、真の錬金術ということを考えると、芸術への波及こそ錬金術の本領かも知れません。芸術こそ、人間が最初に行ったであろう宗教儀式だからです。